純・情・愛・人
心臓がぎゅっと締め付けられる。千切れそうに痛む。分からなくなった。

十年以上経っても、凍った声、眼差しがすぐそこに蘇る。あれが悪役を装った嘘とは思えなかった。すべて本気に見えた。

わたしを赦せなくて当然だったのに、子供のためにお金を残してくれたんだろうか。本当のことを訊ける日がいつか来るんだろうか。

そのときは懐かしく笑えるだろうか、泣いて過ちを悔いるだろうか。

会いたい。
会いたい。
会いたい。

『薫』

わたしが愛した宗ちゃんにもう一度だけ・・・!!

「なに一人でこそこそ泣いてやがる」

いるはずのない声がした。気が付けば隣りに広くんがいて、シャツ越しの逞しい腕に体を抱き寄せられていた。

「な・・・んで、ここ・・・?」

「豪しかいねぇだろ。昔っからクソ甘いんだよ、琴音にはな」

朝倉君からお昼を誘われたことは出かける前に、仕事中の広くんにもメッセージで伝えてあった。帰ったら経緯(いきさつ)を話すつもりだったのだ。

ったくあの女、と頭の上で舌打ちと溜息が漏れた。

「兄貴のこと聞いたのか」

小さく頷いた。

「テメェの不始末ならともかく、他人の尻拭いでブチ込まれてりゃ世話ねぇよ」

シニカルに笑った気配。ぎこちなく顔を上げれば、広くんの武骨な指先が頬の濡れた跡を拭ってくれる。

「帰ってきた時にはハクが付いて、お前が知ってる有馬宗吾とは別モンだ。・・・そいつを置いてったのは、兄貴なりのケジメじゃねぇのか」
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