純・情・愛・人
ほかでもない広くんの言葉だから真っ直ぐ届く。宗ちゃんが背負う宿命の重さを知っているひとの言葉だから。

「真っ当な極道には後戻りできねぇからな。縁切るしかねぇだろ、親父さんともお前とも」

『俺のことは忘れていい』

ふと。宗ちゃんの声が風と一緒にすり抜けた気がした。

手の上であの頃のまま輝く、物言わないペアリング。知っていたのか広くんは何も問わなかった。

ああ・・・。
この指輪は宗ちゃんの優しい『さよなら』・・・・・・。

ごめんね宗ちゃん、聞き分けがなくて。

わたしは忘れない。有馬宗吾が人間の皮をかぶった悪魔になり果てても、地獄に堕ちても。

忘れない。指輪を抱き締める。わたしの宗ちゃんは汚れない。誰も穢せない。なくならない絶対に。

形なんてなくても。
魂に染み込んでる。

立ち上がり、池に向かって地面を踏みしめる。囲う柵から腕を精いっぱい伸ばし。そして。ネックレスは青緑色の水面に吸い込まれていった。

「いいのかよ」

横に立った広くんはわたしのバッグを片手に、そうとだけ。

「・・・宗ちゃんもこうして欲しかったんじゃないかな」

広くんは一瞬目を細め、「帰るぞ」と空いている指先をからめて手を繋ぐ。

相変わらず子供達の前でもお構いなしで、夫婦だけどずっと恋が続いているような。まだ花が咲ききっていないような。

風が頬を撫でる。

『薫』

背中で聞こえた気がした。
振り向かなかった。

沈めたのはただの抜け殻。
宗ちゃんが捨てた宗ちゃんは
ここにいる。

優しい風になって
わたしに、そよいでいる。



END
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