純・情・愛・人
「手前ェの力量で永征会を背負うには、まだまだ場数が足りないんでな。せがれ共に色々と勉強させてるところだ」

「・・・宗ちゃんは立派な跡継ぎになるから大丈夫」

「嬉しいことを言ってくれる」

本心から思っていることだから自然と笑みがほころんだ。

おじさんも口角が上がりっぱなしで、職場の雰囲気はどうだと心配されたり、困ったことがあればいつでも遠慮するなと、相変わらずお父さんより保護者らしかった。

床の間には桃の花の枝が活けてあった。駅から乗ったバスに揺られながら見かけたのは梅だった。お正月がついこの間だったのに、あと半月もすれば桜も開花するんだろう。

年が明ける瞬間より、春を思う方が胸が躍るような。なにかを期待したくなるような。変わらずに宗ちゃんの傍にいることさえ叶えば、他に望みはないけど。

食事の最後には苺のムースとお抹茶も。本格的な会席料理を堪能した気分だった。

「ところで宗吾なんだが」

お酒は食前酒くらいで、ほとんど素面(しらふ)のおじさんが珈琲に口をつけ、世間話と同じくらい穏やかに切り出す。

「そろそろ身を固めさせる頃合いだ。近いうち、知り合いのお嬢を引き合わせようと思ってな」
< 19 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop