純・情・愛・人
翌朝、簡単に作ったサンドウィッチで一緒に朝食を食べ、家の近くまで送ってもらった。運転手付きの高級セダンは道幅が狭い路地は走りづらいだろうから、いつもそうしていた。

「また連絡する。親父さんにも宜しくな」

「うん。・・・待ってる」

三つ揃いを着て、後ろに流すように髪をスタイリングした宗ちゃんは凛々しく、いっそ神々しい。顔も身長も性格も、天は二物も三物も大盤振る舞いだと感心する。

透けないスモークガラス張りの後部シートで別れ際のキスを交わす。最初は唇を合わせるだけ。わたしから宗ちゃんの首に腕を回すのが合図のように、ひとしきり深く繋がって。車を降りた。途端、冷え切った真冬の大気が素肌を刺す。

コートの前を合わせ、見えてはいないんだろうけど黒い車体が角を曲がるまで手を振り、踵を返した。次はいつ逢えるかは考えない。宗ちゃんはあの秋津(あきつ)組に連なる三次組織、永征会(えいせいかい)の跡継ぎだ。仕事の邪魔はしない。嫌われたくない。

秋津組は櫻秀会(おうしゅうかい)と並び、国内では極道の二大勢力と呼ばれている。秋津組には四道会(しどうかい)という会派があって、宗ちゃんの家はそこの傘下らしい。酔っぱらったお父さんから前に聞き出した情報だった。

会社に例えれば大企業のグループに所属しているってこと。数字のノルマだとか経営力だとかは極道もきっと変わらない。宗ちゃんが背負っているものは、もしかしたら普通のよりすごく重くて大変なのかもしれないのに。

怖い顔や苦しい顔は一度だって晒したことがなかった。わたしに隠さないでくれたら何だってしてあげたいのに。

淡い微笑みしか思い出さない。
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