純・情・愛・人
3-1
まばらに残った桜も散り際の頃。わたしは宗ちゃんの厚意に甘え、家から車で七、八分のマンションの一室に自分の荷物を移した。

家具や家電、ある程度の日用品は整っていたから、買い足した物もそんなに多くない。人生初の引っ越しは、拍子抜けするくらい身軽だった。

木目色はメープル、壁は柔らかいクリーム色が基調の4LDK。意外にも一階で、植栽とフェンスで二重に囲われたプライベートガーデン付き。一人暮らしじゃ寂しすぎる広さなのが、贅沢にも悩ましい。

『子供と気兼ねなく遊んでやれそうだしな。将来、親父さんと住むにしても庭があった方がいい』

引っ越す前に新築同様の部屋を案内してくれた宗ちゃんは、手入れされた芝生敷きにやんわり目を細めた。

パパって呼ばれる宗ちゃんや、日向ぼっこをしながら趣味のDIYにいそしむ、おじいちゃんになったお父さんを思い描いて。

未来が待ち遠しくなった。細やかな幸せさえあればいいと、わたしも笑みがほころんだ。

築十七年、五十戸ほどの七階建て。通り沿いに広い公園、左に折れればバス通りで、飲食店、コンビニ、駅に出るのも簡単。

一緒に暮らさないからどこでもいいんじゃなく、“家族”への思いやりに溢れてることが一番うれしかった。
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