純・情・愛・人
お昼時と重なり、目当ての甘味処は待ち時間が三十分以上ありそうだった。周辺は人でごった返しているほどじゃなく、年配同士のグループやカップルが目立つ。

お腹はそれほど空いていなかったから、滝のそばまで遊歩道で下りてみることにした。

生い茂る自然の緑は鼻の奥まで透る爽やかな香りがして、無意識に深く息を吸い込みたくなる。街中の緑はずい分と味気ないことに気付かされながら。

「寒くないか?」

「宗ちゃんの手、温かいから」

水辺が近くなったせいか、駐車場で車を降りた時に比べ空気がひんやり纏いついた。笑顔で振り仰げば、繋いだ指先をきゅっと握り返してくれた宗ちゃん。

出かけると肩を抱かれて歩くことが多い。身を守る為に手は塞がないって聞いたけど、今日は歩くたび繋がれている。

たった数時間の距離でも“戦場”から離れて、背中合わせの緊張感を少しでも忘れられてるなら一番嬉しい。

高さはそれほどじゃない岩肌から、白い糸が流れ落ちてくるみたいな清楚な滝と、青く澄んだ滝壺は本当に絶景だった。

「綺麗だな」

隣りから零れた一言ですごく幸せな気持ちになった。同じ風景を見て、同じ心でいられることがこんなにも。

背中に刺青があるだけの違い。宗ちゃんとわたしは。

今ここにいる誰とだって違わない。宗ちゃんとわたしは。
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