純・情・愛・人
そんなのは。
それでも。
宗ちゃんがわたしを求めるなら。
理由はいらない。
『薫だけだ』
その言葉だけ信じて。
わたしは宗ちゃんのそばにいなくちゃ。
約束だから、独りにしないって・・・!

息を吸う。弱っているところに付けこむなんて狡い。

「・・・広くんじゃわたしを幸せになんて、できない」

突き放した。

「宗ちゃんみたいに優しくないし、甘えられないし、全然ちがう・・・っっ」

わたしを閉じ込める腕に一瞬、きつさが増した。広くんが傷付いた匂いがした。

「偉そうに言っても宗ちゃんには敵わないんだから・・・!」

声を振り絞った。泣きそうだったのを堪えた。広くんはちゃんと優しいし、宗ちゃんと比べて見たことは一度もなかった。

これで気持ちも冷めていくだろう。宗ちゃんに盲目になっている人形だと蔑めばいい。悪いのは宗ちゃんじゃない、馬鹿はわたしでいい。

「・・・そうかよ」

感情の消えた低い呟き。

「お前はどうしたって俺を見ねぇんだな」

最後にわたしの心臓を直に抉って。広くんは立ち上がり、出て行った。
< 68 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop