純・情・愛・人
広くんのことを黙っているのは、必要がないと思ったからで。宗ちゃんに関係のない話で余計な気を煩わせたくない。

有馬の家に彼女を迎える準備が進んでいるのなら、わたしはもう敷居を跨げない。広くんに会うこともない。宗ちゃんは知らなくていい。

・・・お互いを想って言えないことが、だんだん増えていく。小さくても積み重なったらいつか、わたしと宗ちゃんのあいだを塞いでしまいそう。漠然と心許なさが湧き上がり、胸の奥がきゅっと鳴いた。

今まで味わったことのなかった感情に揉まれて、自分のあちこちが歪にへこんだまま、ずっと元に戻らない。上を向いて咲いているつもりでも、宗ちゃんを心配させた。深い息を逃す。しっかりしなくちゃ。

やがて、腰にバスタオルを巻き付けただけの宗ちゃんがリビングに入ってきて、気怠げにソファに体を沈めた。

「髪、まだ濡れてる。乾かすね」

後ろに立つと、洗うと少し癖の出る黒髪に指を通しながら、ドライヤーの温風を当てていく。

いつもとは反対に、こうして乾かしてあげたりもする。わざと半乾きで出てくるのかな。無防備に甘えてくれてるようで嬉しいし、動物同士の毛繕いが愛情表現だっていうのがしみじみ。

されるがままになっている宗ちゃんの後ろ頭に、自然と顔が緩むわたしだった。
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