純・情・愛・人
冷えた麦茶入りのグラスと、お煎餅を盛った菓子皿を真ん中に置いた座卓を囲み、軽く切り出したのはお父さんだった。

「操はつわりが酷くてなー?カオルも無理しねーで会社と相談しろや」

「うん、・・・そうする」

先輩社員が来月末で退社する代わりに深町さんが来てくれたのに。いずれわたしまで辞めることになって、本当に心苦しい。一度きちんとお詫びしなくちゃ。

「産むのも大仕事だけどよ、そっからが正念場ってヤツだからよ。ま、オレがどうにかなったってこたぁ、オレの娘もどうにでもなるってこったろ」

お父さん流に励まされる。

「ただなぁ宗。こっちが先にデキちまって、岸川(むこう)は面白くねぇわな」

胡座を掻いた両膝をポンと叩き、そう続けて核心をついたのを。わたしも握る指先に力が籠もった。縋るように宗ちゃんを見つめて。

「俺は薫を褒めてやりたいだけだ、親父さん。何も気にしなくていい、縁組を早めて(カタ)はつく」

嘘や誤魔化しじゃない。凜として、どこも揺らいでいない。

「親父とお袋にも、ここに来る前に筋は通して来た。永征会も、薫と子供も、俺のものに手出しするなら、相手が誰だろうと容赦はしない」
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