純・情・愛・人
お父さんを真っ直ぐ見据える横顔に、大事にされている安心感に包まれた。大丈夫、守ってくれる。なのにどこか。機械より冷えた響きが耳の奥に残って消えない。

広くんの冷たさとは種類が違う気がした。まるで人間の良心をすべて削ぎ落としたような。・・・それを強さと呼べばいいのか、わたしには分からなかった。

コワイ。宗ちゃんがもし、わたしの宗ちゃんじゃなくなってしまったら。

初めて湧いた衝動を、胸の奥で思いきり振り払う。この子の為にもそんなこと考えちゃいけない・・・!

「宗の心意気はオレもカオルも十分買ってら。けどよ、女は喰えねー怪物だって知ってっか?」

「・・・何が言いたい」

畳みかけたお父さんに怪訝そうに返す、二人のやり取りに引き戻された意識。

「足し算引き算すりゃ帳尻が合うと思ってんなぁ、野郎だけって話だ。宗に、岸川の嬢ちゃんの腹の底の底まで見えてるってなら、オレも口出しする気はねぇよ」

真顔になったお父さんが大きく見えた。

「見せてる腹が、はじめっからニセモノかもしんねーぞ?ちっとばかし、頭冷やせや」

普段は割りとせっかちで、怒るとすぐに雷を落とされそうな風貌だけど。一番必要な話をする時ほど、山のようにどっしり構えている、そんな(ひと)だった。
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