純・情・愛・人
「・・・子供が出来たくらいで、そこまでのぼせ上がっていないが。親父さんの言いたいことは承知している」

ふっと息を吐き、わたしを見つめた宗ちゃんは、眼差しを和らげて仄かに笑む。

今まで宗ちゃんが用意してくれた安全な箱庭の中にいて、心配事はひとつもなかった。危ない目に遭うことも一度だって。これからは他人事ではいられなくなる。当然だ。わたしが彼女の立場でも、愛人(わたし)がこの世から消えて欲しいと願うに違いないから。

「何も心配しなくていい。俺の為に、自分の体と無事に産むことだけを考えていろ」

「宗ちゃん・・・」

「なるべく一緒にいてやりたいが、そうもいかなくてな。俺が来られない間、親父さんも薫を一人にしたくないだろう。明日から広己をこっちに寄越す、護衛代わりだが好きに使えばいい」

耳を疑った。全くの想定外で思考回路の一区間がフリーズした。凍った音まで聞こえた。

「広くんが・・・護衛?」

「親父も賛成した。適任だろう」

それは、見知らない他人よりは。

「でも、・・・広くんは」

あんな風に拒絶したままで、わたしの顔なんて二度と見たくないはずじゃ・・・!

「言い出したのは広己だ、・・・問題ない」

宗ちゃんと視線がぶつかり、一瞬、何かが爆ぜた。ような。
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