純・情・愛・人
お父さんが話しかけ、変わらない表情で受け答えているのを上の空で聞きながら。

広くんが何を考えているのか本当に分からなくなった。“弟”として心配してくれているのか。それともまだ、わたしと宗ちゃんを別れさせたいのか。

広くんとの間で起きたことは二人に打ち明けていない。宗ちゃんがもしも知っていたら任せたりしない・・・?純粋に弟を信頼して?

「コウならオレも助かるしよ、カオルも気楽に頼んじまえや?」

さっきまでの厳しい気配が一転した上機嫌さで、お父さんがニンマリ。

「・・・そう、だね」

少なくても、わたしに危害を加える敵じゃない。信じよう。作った笑みを小さく浮かべた。



見送りはいいと、玄関先で宗ちゃんはいつもより優しく抱き締めてくれた。

「体を大事にしろ。何かあったら遠慮なく俺を呼べばいい」

「うん・・・ありがとう」

「広己もあれはあれで、役に立つ。気の済むようにさせてやれ」

思わず胸元から顔を上げる。やっぱり何もかも見透かされていた気がして。

顎下に指がかかり、そのまま寄せられた唇。目を閉じる刹那、宗ちゃんが低く囁いた。

「・・・爪の先までお前は俺のものだと、存分に教えてやるといい」




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