純・情・愛・人
結局、やっと布団の中から這い出た頃には、とうに十時を回っていた。ゆったりめな部屋着に着替え、洗面所である程度の身だしなみを整えてリビングへ。宗ちゃんになら何を見られても慣れっこだけど、広くんだからそうはいかない。

「・・・広くん、おはよう」

「朝メシは?」

「食べられそう、かな」

「座ってろ」

「ありがとう」

ほとんど同じ会話で始まる一日。見ていたタブレットを伏せて、ソファから立ち上がった広くんは、ラフなハーフパンツ姿でキッチンに立つ。

ダイニングテーブルの前に腰かけると、ブラインドカーテンを開け放った窓の向こうを眺めながら、大人しく待つのがわたしのルーティン。何しろ手伝いも一切聞き入れてくれない。お父さんについ溢したら、『飽きるまでやらせてやれや』と分かりやく返った。

ガラス越しに切り取られた、綿を敷き詰めたみたいな空。例年より早い梅雨入りが昨日、発表された。

「いただきます」

「いいから食え」

レタスとハムを挟んだロールサンド、ヨーグルトがけのバナナ、リンゴジュースで割ったリンゴ酢ドリンクが乗ったトレーが置かれ、軽く手を合わせる。さっぱりして食べやすいものばかり。

素っ気ない態度で、相変わらずの命令口調。でも、想像していたほど居心地が悪くないのは。

ありきたりな言い方をすれば、優しい広くんがところどころ滲んでるから。だと思う。
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