純・情・愛・人
「お昼ご飯食べる?」

深町さんとのやり取りを終えてから、冷蔵庫にあった水餃子と胡麻豆腐に、大根サラダだけ手作りして部屋の扉をノックした。出てきた広くんはわたしの顔色を確かめるように見据え、「具合は?」とぶっきら棒に訊ねる。

「朝よりは良くなったから平気。明日は遅刻しても会社行くね。休んでばかりで迷惑かけてるし・・・」

「また病院送りにされてぇのかよ」

上から睨まれるけど、心配の裏返しなのかそうじゃないのかが、何となく分かるようになってきた。

「会社なんてのはお前がいなきゃいないで、勝手に回る」

だから気にするな。翻訳するとそういう意味だと思う。

六人掛けのダイニングテーブルで向かい合い、二人きりだといつも広くんはスマートフォンを相手に箸を動かす。お天気や、ニュースの話題で世間話をすることもない。会社の休憩室で、親しくない社員と相席になった時の空気感と似ている。

ここに来てからの広くんは、わたしと宗ちゃんのことも、琴音さんのことも口にしない。体を気遣ってくれてなのか、別の思惑があって機会をうかがっているのか。

ふと。彼は岸川に戻ったんだろうか。

「朝倉君はまだ有馬の家にいるの・・・?」

画面に落ちていた視線がこっちを捉える。

「豪は連絡役だからな、しばらく居座りやがるだろ」
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