純・情・愛・人
ずっと自分がいっぱいいっぱいだったから、そこまで頭も回っていなかった。彼女より先に宗ちゃんの子供を授かったことで、広くんと朝倉君の関係が捻れてしまう可能性に。

好き嫌いがはっきりしている広くんが気を赦せる相手はそんなにいないから。勝手だけど、二人は変わらないでいて欲しかった。

尖った言い方には聞こえなかった、いつも通りの口調に、胸の奥もほっと緩んで。

「よかった」

自然と笑みが零れたのを、広くんが箸を口に運びかけたまま固まっている。

「?」

「・・・意味分かんねぇよ」

にべもなく目を逸らした彼。

「あ・・・うん。仲が良いならよかったと思って」

「あの野郎はそんなんじゃねぇからな」

どことなく決まり悪そうに返って、それきり。

先に食べ終えイスから立ち上がった広くんが、重ねた食器を手に不本意そうに告げた。

「あとで兄貴が来る」

魔法の呪文だ。残りを食べきってしまおうと気力が湧く。一口サイズのおにぎりを齧りながら視線が合う。

「にやけ過ぎだ、バーカ」

最後の『馬鹿』には3センチくらいの棘が。

・・・反抗期の息子ってこんな感じなのかな。キッチンに消えた背中を追い、つい溜息が漏れるわたしだった。
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