ユメタンの悪夢
ユメタン
「皆さん、入学おめでとうございます。」
担任は、カトウという名の英語教師だった。
とても穏やかな雰囲気の漂う、背の高い中年の男性だ。
ここの中学は、教科書が多いことで有名なようだ。
少年Aの机にも、大量の教科書が積まれる。
しかし、少年Aにとっては、何もかもが嬉しかった。
少年Aは、教科書をひとつずつ撫でる。
彼は、これから始まる中学校生活に胸を弾ませていた。
その時、教科書の山から、小さな本が落ちる。
黄色い表紙だ。
表紙には、坊主頭の少年が小さく描かれている。
『ユメタン0』
その本の題名だった。
中は、英単語だった。
英単語の教科書だろうか。
少年Aはその本も同じように撫でると、教科書の山に戻した。
しかし、少年Aは知らなかった。
「ユメタン」の悪夢を。
「ユメタン」が、その後、少年Aを蝕むことになる、なんて。
この時の浮かれた彼は、少しも考えていなかった。