愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~
久しぶりに夢を見た気がする。
高校時代の部活の夢だった。
南は、的に向かって弓を構える碧唯を遠くで見つめていた。
真っすぐに伸びた背筋、真剣な眼差し、ピンと張った腕。どこをどう切り取っても美しさしかない。
静粛な時間が流れる中、碧唯から弓が放たれた。
ヒュンッと音を立てて空気を切り裂き、的のど真ん中を射貫く。瞬間、体から力を抜いた碧唯が、やわらかな表情で南に笑いかけた。
高校生のとき、実際に何度かそんな場面にでくわした経験がある。
たまたま視線の先に南がいただけだったろうが、自分自身が的になって射貫かれたように、密かにドキッとしたのを思い出した。
碧唯は、南にとって大切な友達だった。
――いや、違う。そうでなければならないと思っていた。
適度な距離感が心地よかったのはたしかだが、その根底に彼への恋心が隠されていたのを今、思い出した。
だから初めての失恋で碧唯と飲み、彼のマンションに行った夜、このままどうにかなってしまえばいいのにとアルコールに侵された頭で願っていた。
彼氏に振られた腹いせでも、やけっぱちになったわけでもない。