愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~
表示された名前をぽつりと呟いて、画面をスワイプした。
「もしもし」
《……まだ帰ってないのか?》
電話から夜の街の雑踏が伝わったようだ。
「うん、今仕事終わったとこ。これから帰るところだよ」
歩きながらの通話を避けるべく、いったん歩道の隅に身を寄せる。
《こんなに遅い時間なのに》
「まだ人はたくさん歩いてるよ」
九時まであともう少し。〝こんなに遅い〟というほどでもない。
金曜日の夜だから余計に人も多いのだろう。
《迎えに行く》
「えっ、平気だよ。電車に乗ったらすぐだから」
急いで大丈夫だとアピールする。