なぜか推しが追ってくる。
「わたしはこの演劇部が大好き。……なんて、改めて言うと照れるな」
口にしてみてから恥ずかしくなって、えへへと笑って誤魔化す。
すると、恭くんはなぜか足を止めた。
「ん、どうしたの?」
そう言って恭くんの顔をのぞきこんだ、その瞬間だった。
レモンの香り──恭くんの付ける香水の香りが、ふわっと強くなった。
……本気で意味がわからないのだけど、今のわたしの状況を一言で簡単に説明してみるとこうなる。
恭くんに、抱きしめられている。
「ななななな、何事!?」
「……え、あ、ごめん」
パニックになって裏返った声をあげると、恭くんはあっさりとその手を緩めた。
というか、なぜか恭くんも自分自身の行動に戸惑っている様子だ。
「あれ、本当にごめん。今なんかこう、無性に抱きしめたい気分になって……でも本当にするつもりじゃ……」
「だ、大丈夫でございますよ!? むしろわたしこそご馳走様と言いますか……」