なぜか推しが追ってくる。
先生に合図されて入ってきた人を見た瞬間、心臓が止まる思いをした。
まず目を奪われたのは、地毛にしては明るい茶髪と、横顔だからこそ際立つ高い鼻。
他の男子たちと同じうちの高校の制服を着ているはずなのに、姿勢の良いすらりとした長身も手伝ってどこぞのハイブランドの服に見える。
教卓横まで来て前を向けば、整いまくって明らかに次元を一つ間違えているお顔の全体像がお披露目された。
初対面の人間約四十人を前にしても、一ミリも緊張する素振りは見せず、白い歯を少しのぞかせて笑う。
そして、一般人にはない、特有のよく通る声で言った。
「はじめまして、天羽恭です。今日からクラスメイトとして、ぜひ仲良くしてください」
名乗った。確かに天羽恭と名乗った。
そっくりさんとかじゃない。もちろん、こんな国宝級イケメンのそっくりさんなんていても困るのだけど。
「き……! ききききききききき」
わたしの口から、小型の猿もしくは南国の鳥が発するような奇声が漏れた。
教卓の方から先生の視線を感じて、慌てて口を押さえる。
──待って、落ち着こう。そんなわけがない。そんなわけがなかろう。