なぜか推しが追ってくる。
斜め上の提案にわたしはあんぐり口を開ける。
当然ながら他の皆さんも戸惑った様子だ。
「いやでもわたしは本当にただの見学……」
「あたしそろそろもう次の仕事に向かいたいので。この素人の子で練習しとけば、同じく素人のあたしに合わせる練習にもなるでしょ? ……てわけでよろしく」
強引すぎるだろ。人の話を聞いてくれ。
……ていうか、だんだん腹が立ってきた。
本業はモデルだか知らないけど、彼女はここにいる人たちを馬鹿にしてる。
わたしは手に持っていた台本をペラペラとめくり、彼女がダメ出しされていた独白シーンを開いた。
原作の漫画は時々読んでいるし、このヒロインについてある程度の理解はあるつもりだ。
──本当にやるのか。自分自身に尋ねた。
ここにいるのは、恭くん以外は皆知らない人ばかり。この稽古が終わればきっと二度と会うこともない。
なら、大丈夫だ。一度だけ。
わたしは、ゆっくりと部屋の中央まで足を進めた。
それからスッと大きく、静かに息を吸い込む。
「『私は、ずっと自分が嫌いだった──』」