なぜか推しが追ってくる。
それは、瑞紀ちゃんと親しくしている部員たちは皆知っていることらしい。どうやら本人は誰にも知られていないと思っているようだが。
『舞台で演じてみないか、とは何度も誘ってるんだがな。裏方の仕事が好きだからと色よい返事をもらえた試しがない』
いつか自分の書いた脚本で彼女に舞台に立って欲しいと思っているがその願いは叶わなそうだ……と悔しそうだった。
俺も部長の書いた脚本は見せてもらったが、かなりレベルが高かった。
『部長さんの書いた話を瑞紀ちゃんが演じたら、それはもう高校生の部活のレベルじゃなくなりますよ。なんなら俺も参加したいぐらいです』
素直な気持ちで言ったものの、それはお世辞として受け取られた。喜ばれはしたが。
──やがて、台本数ページ分を読み終えた彼女は、大きく息を吐いて髪をかきあげた。
誰からともなく拍手が起こる。
瑞紀ちゃんはそれに、少し居心地悪そうに一礼した。
この現場で一番仲の良い俳優仲間のイトウくんが、拍手をしながらこっそり俺に近づいてきて問う。