なぜか推しが追ってくる。



静かに目を閉じて、深呼吸。

頬をつねって痛いのを確認してから、そっと目を開ける。


すると、国宝級イケメン俳優だったはずの転校生は、ごく普通の冴えない感じの男子生徒になっていた……

…………………………なんてことはもちろんなく。国宝は国宝のまま。




「う……そ……」




貧血を起こしたときのように目の前がちかちかして、ぐらっとなる。


わたしがいるのと、間違いなく同じ空間に。

全力ダッシュすれば三秒ぐらいで手が届いてしまう場所に。

あの天羽恭が。

推しが。

……いる。




「あー……武藤のせいで知っている者も多いかもしれないが、天羽は芸能活動をしていてな。全ての授業に参加できるわけじゃないから、色々と助けてやるように」




先生はクラスの皆にそう言った後、またジトっとした目をわたしに向けた。




「ちなみにおれは、武藤がいつも騒ぎ立てている芸能人が天羽だということに、昨日他の先生に言われて初めて気が付いた。席替えをしておかなかったこと、今全力で後悔している。……天羽、非常に居心地が悪いと思うが、窓際から二列目の一番後ろ、武藤の隣に座ってくれ」




< 12 / 223 >

この作品をシェア

pagetop