なぜか推しが追ってくる。
静かに目を閉じて、深呼吸。
頬をつねって痛いのを確認してから、そっと目を開ける。
すると、国宝級イケメン俳優だったはずの転校生は、ごく普通の冴えない感じの男子生徒になっていた……
…………………………なんてことはもちろんなく。国宝は国宝のまま。
「う……そ……」
貧血を起こしたときのように目の前がちかちかして、ぐらっとなる。
わたしがいるのと、間違いなく同じ空間に。
全力ダッシュすれば三秒ぐらいで手が届いてしまう場所に。
あの天羽恭が。
推しが。
……いる。
「あー……武藤のせいで知っている者も多いかもしれないが、天羽は芸能活動をしていてな。全ての授業に参加できるわけじゃないから、色々と助けてやるように」
先生はクラスの皆にそう言った後、またジトっとした目をわたしに向けた。
「ちなみにおれは、武藤がいつも騒ぎ立てている芸能人が天羽だということに、昨日他の先生に言われて初めて気が付いた。席替えをしておかなかったこと、今全力で後悔している。……天羽、非常に居心地が悪いと思うが、窓際から二列目の一番後ろ、武藤の隣に座ってくれ」