なぜか推しが追ってくる。
「……大丈夫?」
「だいじょばないよ!! 藪から棒にいったい何!?」
「さっきから抱きしめたくてたまらないから、またこの前みたいに無意識に行動しちゃう前に許可もらっとこうと思って」
この前っていうのは、恭くんが部活見学に来た日の帰り道のことか。
あのときは何の前触れもなく抱きしめられて、なぜか抱きしめてきた当の本人を自分の行動に戸惑っていた。
くっ……その記憶は頑張って頭の隅に追いやってたのに……。鮮明に思い出してしまって頬がカアっと火照ってくる。
「きょ、許可なんて出せません!」
「嫌?」
「嫌ではない! もちろん! だけどわたしの心臓がもたないんだよ! 止まるから、絶対止まる……」
その言葉の途中。まだ記憶に新しいあの感覚に包まれた。
頭の後ろと背中に回される恭くんの手。ピタッとくっつく体。
ついでに、行き場を失ったフィルムむきかけのおにぎり。
──そう。またしても、推しに抱きしめられてしまった。