なぜか推しが追ってくる。
「何で私たちの名前……?」
「恭の口から時々出てくる名前なんでね」
真緒が警戒心を露わにすると、男は肩をすくめてオレたちに名刺を渡した。
名刺にはやはり、芸能プロダクションの名前とマネージャーの文字。そしてこの男は早坂というらしい。
「で、何の用だ?」
「……単刀直入に言う。武藤を振り回すのをやめるよう、あんたから天羽に言ってもらいたい。授業休ませて仕事場に連れてくとかおかしいだろ」
「武藤……ああ、武藤瑞紀っていうんだったな、彼女」
オレの言葉に早坂は芝居がかった仕草で肩をすくめ、息を吐くように笑った。
「断る」
「は?」
「おれには恭を役者として成功させることが一番大事だ。彼女にはそのために重要な役割を果たしてもらっている」
「武藤が天羽の成功に重要な役割? 要するに『好きな女が近くにいればやる気が出る』ってだけのことだろ? そんなのを理由に一般人巻き込むのが迷惑だって言ってんだよ」
「んな軽いもんじゃない。彼女の存在は恭にとって、役者の仕事をする意味そのものなんだよ」