なぜか推しが追ってくる。
何でもかんでも知っているとまでは言わない。
それでも、他の奴らよりは知っているつもりだった。
だが……。
「違う、おれが言ってるのはもっと大きなことだ」
早坂は馬鹿にしたように笑った。
そしていきなりこんなことを尋ねてきた。
「お前ら、さすがに女優の神山愛子さんは知ってるか?」
「神山愛子?」
ある程度テレビを見たことがある人なら誰でも知っているであろう名前だった。
オレたちが生まれる前から活躍している、大物女優。
確か最近では……
「今公開してる映画で天羽と共演してる、あの神山愛子のことか?」
「そうだ」
「でもそれが何か……」
「娘だよ」
「は?」
早坂は、まるで小さな子どもに言葉を教えるかのように、ゆっくりと丁寧に言い直した。
「武藤瑞紀は、神山愛子の一人娘だ」
「……は?」
……言われたことに、頭が追い付かない。
隣で真緒が、事情が飲み込めないというように目を白黒させていた。きっとオレも同じような顔をしているのだろう。