なぜか推しが追ってくる。
考えてみれば、武藤の家族に会ったことはない。
一人っ子であることや父親が海外にいること、母親も仕事で忙しいという話は聞いていた。
だから、学校行事なんかで見かけなくても、特に何も思わなかった。
「で、でも信じられないよっ! 苗字も違うし!」
ようやく口を開いた真緒が言う。
「そりゃ“神山”ってのは芸名だ。というか、確か旧姓だったか」
「それはそうかもだけど!」
「もっとわかりやすい証拠もある。むしろこっちが本題だな」
早坂は言いながら、スマホを取り出して操作する。
そして、その画面をオレたちに見せた。
そこには、穏やかな笑顔を浮かべた10歳に満たないぐらいの女の子の画像が何枚もあった。
斜めの角度でカメラ目線。いかにも芸能人の宣材写真といった感じのそれは……
どう見ても、幼い頃の武藤瑞紀だ。
「子役時代の武藤瑞紀だ。母親と苗字をそろえた、“神山ミズキ”ってのが芸名だ。神山愛子の娘って一時期話題になったんだが、……メディアの露出もそれほどないまま小学生のうちに引退したし、今の武藤瑞紀とはずいぶん雰囲気が違うから、ピンとこないのも無理はない」