なぜか推しが追ってくる。
4.

昔の話をしよう





「……恭くんの、初恋の人ってさ」




恭くんに抱きしめられたまま話を切り出したはいいけど、今さら少し不安になってきた。

見当違いだったら、あまりに自惚れすぎだから。




「神山ミズキ、ってことでいいの?」




もうずいぶんと口にしていなかった昔の名前。

わたしがまだ、恭くんと同じ世界にいたときの名前。

声に出してその名前を言っても、思いのほか胸がざわつかないことに気が付いた。



……絶対にわたしを逃がすまいとしていた恭くんの手の力が、ようやく緩んだ。




「そうだよ。神山ミズキちゃん。君が、俺の憧れで、ずっと好きだった人」


「今のわたしはただの武藤瑞紀だよ」


「……そうだね、ごめん」


「初恋の人がわたしに似てるって言ってたときから、きっと神山ミズキのことだって思ってた。……養成所にいた頃、時々話しかけてくれたし」


「ああ、やっぱり覚えてたんだ」




恭くんはそう言って、気恥ずかしそうに頬を掻いた。



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