なぜか推しが追ってくる。
「おにぎりでも食べながら、ちょっと昔の話をしてもいい?」
恭くんがそう言ったのでうなずいた。
行き場をなくしていた昆布おにぎりにようやくありつける。
既にパリパリ感を失った海苔と塩気のあるお米。なかなか昆布にたどりつかないから、具はケチられてるタイプだな……などと思いながら食べ進める。
ようやく昆布の甘辛い味がしてきた頃、恭くんが話を始めた。
「最初はさ、母親の機嫌とるためだけに仕事してたんだ」
「……お母さんの?」
「うん。昔は自分が女優になりたかったけど、だめだったから子どもの俺にその夢を勝手に託したらしい」
恭くんはわずかに苦い色を浮かべる。
「それだけならまだいいけど、あの人はすごく感情的な上に身勝手で。……レッスンなんて行きたくないって言った日には怒って家から閉め出されし、逆にちょっとでも褒められれば『私の血を受け継いでるだけのことはある』って、自分の手柄みたいに周りに自慢してた」