なぜか推しが追ってくる。
いわゆるステージママというやつか。
実際、そういう親を持つ子たちは周囲にたくさん見てきた。
だけど、恭くんもそのような環境にいたというのは初耳だった。
「素直に言うこと聞いて、上手くやれば機嫌よくいてくれる。だから本当に、子役をするのは平和な環境を保つための手段でしかなかった。演技を楽しむなんて、そんな余裕あるはずなかったんだよね」
「だからあの頃、レッスンにしてもオーディションにしても、あんなにつまらなそうにしてたんだ……」
「そう。つまらないどころか苦しくて仕方なかった。最初瑞紀ちゃんに注意されたときも、何も知らないくせにうるさいなって思ったよ」
「他人の家の事情とか全然想像できてなくて……。ごめんね」
「謝らないでよ、知らなくて当然だし。……あの頃の瑞紀ちゃんは、今よりずっと大人しくて気弱な感じの子だったよね。そんな子が突然声かけてくるなんて思わなくて驚いたのを覚えてる」