なぜか推しが追ってくる。




その時のわたしは、「もっと楽しそうに演じないと、役に失礼だよ」と小さな声を震わせながら言ったらしい。

よく覚えていないけど、確かに昔のわたしは今と違って大人しい子どもだったから、そういう言い方をしてそうだ。



「あの時は自分のことで精一杯だったから、他の子の演技に目を向けたことってほとんどなくてさ。だから、注意された腹いせに瑞紀ちゃんの演技を見て思いっきり貶してやろうとか意地悪なこと考えてたんだ。あんな声の小さい静かな子に大した演技できないだろうって高を括ってて」




恭くんはそのときのことを思い出しているのか、声を出して笑った。




「ふふ、そしたらもう、すっごい衝撃だったよね。あんな物静かな子があそこまで周りを引き込む演技ができるなんて。何か別のものに取り憑かれてるんじゃないかと思ったもん。──あれを見た瞬間、完全に心を射抜かれた」


「そんな大袈裟な……」


「大袈裟じゃない。あの瞬間からだよ、俺の演技をする目的が『母親のご機嫌取り』から『神山ミズキの目に映りたいから』に変わったのは」





< 137 / 223 >

この作品をシェア

pagetop