なぜか推しが追ってくる。
「……ごめんね。求めていた“神山ミズキ”じゃなくて」
「え……」
「聞けば聞くほど、恭くんがわたしに神山ミズキに戻って欲しがってるのがよくわかるよ」
わたしは高校の演劇部に所属している。素人のものではあるけど、演劇という大好きなものに関われるからと入部を決めた。
恭くんはそれを知ったとき、きっと嬉しかったのだと思う。
どんな形であれ、わたしがまた演技をしていると思ったから。
だけど、わたしは舞台に立つ気なんて全くなくて。
見学をしたいと言われ、誤解のないよう「わたしは裏方に徹している」と伝えたとき、恭くんがあからさまにガッカリした表情をしていたのが頭に焼き付いている。
「恭くんは推しであり、わたしにとって推しは恋愛対象じゃない。前までのわたしはずっとそう自分に思い込ませて、恭くんへの本当の気持ちを見ないようにしてたの」
「……うん」
「もし神山ミズキでいることを辞めてなかったら、対等な立場で恋愛できてたかも。叶う恋だったのかも。……って後悔するのが嫌だったから」
そんな後悔をするぐらいなら恋愛感情なんて最初からなかったことにしておこう、だなんて。
ああ、やっぱり逃げてるなわたし。