なぜか推しが追ってくる。
でも、もう逃げたくない。
だから言うって決めた。
「恭くんにとって、“神山ミズキ”ではないわたしに価値なんてないかもしれない。でもわたしは、武藤瑞紀は恭くんのことが好きです」
ファンとして、ではない。
天羽恭という一人の男の子に恋をしている。ライバルは昔の自分。
「恭くんがわたしに初恋の子を見出して恋をしているのだとしたら、正直にそう言ってください。武藤瑞紀は潔く失恋します」
それでは、お互い苦しい思いしかしない。
本当はもっと早くに言うべきだったんだ。
言えなかったのは、恭くんが向けてくる気持ちが昔のわたしを好きだった延長だとしても構わない……という甘えがどこかにあったからだろう。
──数十秒ほどの時間が流れた。
恭くんの手が、そっとわたしの頬に触れた。
「……ちゃんと言ったつもりだったんだけどな。今俺の目の前にいる武藤瑞紀が初恋の女の子と全然違うことぐらいちゃんとわかってるって」
「え……」
「確かに最初は、神山ミズキちゃんを求めて転校までした。だけど今のキミに出会って、俺は改めて恋をしたんだよ」