なぜか推しが追ってくる。
恭くんは頬をわずかに赤く染めながら、わたしの顔を真剣な目で覗き込む。
「きっかけは、学食で俺のことを悪く言った人たちに怒ったときかな」
「あ、あのとき……?」
「実を言えばあの頃、俺の知る神山ミズキちゃんとキミが違いすぎて、別人説もちょっとだけ捨てきれてなくてね」
なるほど、今のわたしは大人しさの欠片もないから正しい考えと言える。
「でも、俺のために本気で怒る瑞紀ちゃんを見て、……自分でも驚いたんだけど、『たとえこの子が神山ミズキじゃなくても構わない、それでも好きだ』って思ったんだ」
「なっ」
「そりゃあ『神山ミズキの演技を見たい』って気持ちは、それこそ一ファンとして持ち続けてるけど、今俺は間違いなくキミを武藤瑞紀として見てるし、武藤瑞紀に……恋をしている」
恭くんの綺麗な顔が、少しずつ近づいてきた。
……と、思った瞬間。
一瞬、柔らかなものが唇に触れた。
声を上げ損ねてしまうぐらい、本当に一瞬のことだった。
え。え?
え、今……恭くんの唇が、わたしの唇に……
「~~っ!?!?」
爆発しそうになった感情、結局声にはならず。
ただただ、体温だけが急上昇していく。