なぜか推しが追ってくる。
「神山ミズキの演技は皆に見てほしいけど、瑞紀ちゃんのこういう可愛い顔は一人占めしてたいって思うよ」
恭くんはまるで涼しい顔をして、そんなことを言ってのけた。
「そ、そそそ……」
そんなことより、今、何しました!?
……と聞きたかったのだ。本当は。
だけど、実際に「そ」の次に出てきたのは全然違う言葉だった。
「その気持ちわかる! わたしも恭くんの素晴らしさは全宇宙が知れって思うけど、一人占めしたくてたまらなくなる瞬間もある!」
待てわたし、共感してどうする!
だめ。顔あつい、倒れそう。
「……あ、電話だ」
ぼうっとする頭の中に、携帯電話の鳴る音が響いた。
恭くんはしぶしぶといった感じでスマホを取り出す。
「──はい。わかりました」
恭くんの目が離れた隙に、わたしは火照った頬を手で必死に冷やす。頬は驚くほど熱くなっていた。
どうやら電話は、スタジオにいるスタッフか誰かからかかってきたらしい。
「いい加減戻って来いって言われちゃった。瑞紀ちゃんはどうする?」
「わたしは……もう家に帰るよ」
さすがにあそこに戻るのは気まずい。
そう思ったわたしは、ぼんやりと夢見心地のまま、恭くんに別れを告げたのだった。