なぜか推しが追ってくる。
わたしは光の速度で起き上がり、姿勢を正す。
油断した。こんな時間に帰ってくるとは。
「お帰りなさいお母さん!」
「ただいま……みーちゃん、学校は?」
言われて時計を見れば、今はまだ午後三時前。本当ならまだ授業をしている時間だ。
仕事で忙しいお母さんは家にいる時間が少ないと思っていたけど、案外わたしが学校に行っている時間は帰ってきていたりするのかもしれない。
「あー……ちょっと体調悪くて早退させてもらった……」
「え、大丈夫? そういえば顔赤いし熱?」
顔が熱くなっているのは全く別の理由だ。だけどとりあえず乗っかる。
「うん、まあ微熱? ちょっと寝たらよくなったからもう大丈夫」
「それならいいけど……寝るならリビングじゃなくて自分の部屋行けばいいのに」
お母さんが嘘を信じてくれたかどうかは微妙なところだけど、まあ別にサボっただけとバレてもきっと怒られはしない。寛容な人なのだ。
……そういえば恭くんは、昔は母親の機嫌をとるために仕事をしていたと言っていた。平和に過ごすためには従うしかなかったのだと。
それを思うと、わたしは親にはすごく恵まれたのだと思う。