なぜか推しが追ってくる。
真緒が機嫌を直すのに数日かかると数馬が読んでいたのに対し、今日会った真緒が既にいつも通りだったのは、お兄さんに諭されたかららしい。
真緒は自分のチョコレートケーキを一口食べて、思い出したようにまた首をかしげた。
「あ、そうだついでにもう一つ聞きたいんだけど……瑞紀が天羽恭の大ファンなのは結局本当なの? それとも、それも自分が神山ミズキだったって知られないためのブラフ?」
ダンっと大きな音がしてテーブルが振動した。
理由は簡単。わたしが思いっきりテーブルを叩きつけたからだった。
「なわけないじゃん! 心外! わたしがどれだけ恭くんを見続けていたと……。恭くんis神!」
「あ、はは……だよね……」
「でも天羽は養成所の同期? だったんだろ?」
「……そうだけどそれだけじゃないの!」
わたしは一度落ち着くべく、コップに入った水を一気に飲み干す。
──そう、あれは今から二年前のこと。
「わたしね、引退してからずっと、映画もドラマも舞台も一切見てなかったの。思い出して辛くなるだけだから。そんなわたしを見かねたお母さんに、無理やり舞台を見に行かされたことがあって……」