なぜか推しが追ってくる。
「……って、大丈夫!?」
「だいじょばない……」
腰が抜けてしまった。
だって! だって!!!!!
ズルズルとしゃがみ込んでいくわたしを、恭くんは慌てたように引っ張り上げる。
「ごめんね。楽しくて調子乗っちゃった」
「本当だよ! 恭くんはもっと自分の破壊力を自覚しろください!!」
「あ~……恭お前余裕だな~。本番直前にずいぶんとまあイチャイチャしやがって」
いつの間にか後頭部を叩かれた痛みから立ち直ったらしいイトウさんが、生温かい目でそんなわたしたちを見ていた。
「本番前だからこそ癒しがいるんだよ」
「はいはいそうですか」
呆れられてますよ恭くん。
だけどこの調子なら、本番も良いコンディションで迎えられそうだな。
そう安堵したときだった。
「原さんは!? ここにも来てない!?」
慌ただしく走ってきたスタッフが、控室の扉が開いて大声で尋ねるのが聞こえた。
楽しそうにしていた恭くんも、その声を聞いて眉をひそめ、そのスタッフに問う。
「楽屋にいないんですか、原さん」
「メイクや着替えは終わってるんですけど、お手洗いに行くと言って出て行ったっきり全然戻ってこなくて」