なぜか推しが追ってくる。



どうやら、原さんにはこの控室以外に個別の部屋が用意されていたらしい。

もう今から三十分以上前にその部屋を出たきり戻ってこなのだそう。


だんだん開演時間も迫ってきている。そろそろ準備を始めてもいい頃だ。




「近くのお手洗い、もう一度確認してきます」




控室の方にいたスタッフ数人もそう言って走っていく。

それを見送った恭くんとイトウさんも、明らかにピリついた表情で控室の中に戻る。

わたしはもうここを離れようかとも思ったけれど、やはり気になってさりげなく恭くんの後ろに続いて部屋に入った。




「……ねえ、ヤバいんじゃない?」


「今日はまだ一回も顔見てないし」




完全に動揺している出演者たち。

ヒロイン役が突然姿を消したのだから当然だ。




「まさか……ボイコット、とか?」




誰かが言った。

その言葉をきっかけに、辺りが静まり返る。


一度稽古の様子を見せてもらっただけのわたしですら心当たりがあった。


原麗華は、この仕事に乗り気ではなかった。



< 177 / 223 >

この作品をシェア

pagetop