なぜか推しが追ってくる。
かなり現実味のある可能性に思えた。
「……その場合って、どうなるんだ?」
まだそうだと決まったわけではないけれど、皆の顔はみるみるうちに暗くなっていく。
「そりゃ中止だろ。原さんのネームバリューで人呼んでるんだ。他の役なら代役立てられても、ヒロインだけは無理だ。……まあ、さすがにここまで直前だとどんな役でも代役は無理だろうが」
「だよね」
今回の舞台の劇場は、ものすごく大きな場所というわけではない。
それでも、中止なんて事態になったら、いったいどれだけの人に迷惑が掛かるだろう。どれだけの人をガッカリさせるだろう。
原さんが、それをわかっていないはずはない。
「ねえ武藤ちゃん。君ならヒロインの代役やれたりしない?」
突然、そんな声がかかった。
真剣な声の主は、つい数分前までへらへらしていたはずのイトウさんだ。
「え」
「……恭も全く教えてくれる気配ないけど、君どう考えても経験者でしょ? 原麗華なんかが十年レッスンを受け続けても到底追いつけないぐらいの才能が君にはある。残酷なことにね」