なぜか推しが追ってくる。
部活で、誰もいない時間に台本を読みながら一人芝居をしてみることが度々ある。
それをするのは、楽しいからという理由の他に、症状が改善していないかチェックする目的もあった。
だけど、舞台上でも何でもないただ一人の空間であっても、台本を閉じた瞬間頭が真っ白になるのだ。
「瑞紀ちゃん。落ち着いて。ゆっくり深呼吸して」
「っ……」
血の気の引く思いをしていたわたしの肩を、恭くんが優しく抱き寄せた。
その声も、ゆったりとわたしの心を落ち着かせてくれるもので。
言われたように深呼吸をしてみるうち、震えはだんだん治まっていった。
でも、気持ちが落ち着いたのも束の間。
恭くんには、台本を覚えられないという症状のことを話していない。もし恭くんまでも、わたしに原さんの代役をやって欲しいなんて言って来たらどうしよう……と不安が広がっていく。
だけど、恭くんはそんなことは言わずに、代わりに厳しい声でイトウさんを窘めた。