なぜか推しが追ってくる。
「イトウくん。ものすごく無茶なこと言ってるのは自分でわかってる?」
「……」
「瑞紀ちゃんは一般人だ。それに例えプロだとしても、そんな芸当はさすがに無理だよ」
「……わかってるさもちろん。僕も原さんがいなくなったことに少し気が動転したってだけで、本気じゃない。武藤ちゃんも困らせてごめん」
わたしは静かに首を振った。
冷静に考えてみれば当然だ。本気でそんなこと提案するわけがない。冗談として流せばいいだけの言葉だったのだ。
恭くんのおかげですっかり落ち着きを取り戻したわたしは、彼に小さく「ありがとう」と呟く。
それから、ゆっくり顔を上げた。
「恭くんの言う通り、原さんの代役をやるなんていうのは絶対に無理だけど。せめて、原さんを探すの手伝ってきます」
今のわたしにできることなんてそれぐらいしかない。
「恭くんの舞台を中止になんて、絶対させない」
「瑞紀ちゃん……」
心配そうな目でわたしを見る恭くんに、わたしは力強くうなずいてみせた。