なぜか推しが追ってくる。
「……逃げることに関しては、多分わたしの方が経験豊富ですから」
「どういうこと?」
「嫌なことから逃げたいときって、こういう薄暗くて狭い場所に隠れたくなるじゃないですか」
原さんは怪訝そうな顔をする。共感を求められても困るという感じだ。
まあ確かに、隠れたくなる場所なんて人それぞれか。
だからわたしがあっさり原さんを見つけられたのは、ただの偶然なのだろう。
「……ねえあなた、あたしの代わりにヒロインやってよ」
体育座りのまま顔を伏せた原さんが、またしても弱々しい声で言った。
「この前のあなたの演技、ずっと頭にこびりついて離れないの」
「わたしは、舞台に立てません」
「あなたみたいな人間がそこらに転がってるのに、演技の才能なんてこれっぽっちもないあたしが主役を張る……なんて、おかしな話よね」
「そんなこと……」
「あたしはね、モデルの仕事が好き。服が好き。メイクが好き。デザインを考えるのも好き。あと、あたしの紹介したブランドや化粧品を試した子たちが嬉しそうに報告してくれるのを見るのも好き」