なぜか推しが追ってくる。
「恭くん……」
「終わってすぐに劇場から出てった瑞紀ちゃんを見かけた……ってスタッフさんが教えてくれて」
ずっと走ってわたしを探していたのか、ぜえぜえと息を切らす恭くん。
わたしはそっと振り返って、ひゅっと息を飲んだ。
「恭くん!? この格好のままで出てきたの!?」
ウィッグを外し衣装は着替えてはいるものの、メイクはそのまま、顔を隠そうという気配すらない状態。
周囲には、わたしと同じように劇場から出てきたばかりと思われる人たちが何人もいる。
「あれ、あの人って……」
「さっきの俳優さん?」
「何でここに? それにあの抱きしめられてる女の子誰だろ」
ほら。ほら!!!
バレてるんだよ恭くん。自衛が甘いんですよ恭くん。
恭くんも自分が注目されていることにようやく気が付いたようで、「あっ、やっちゃった」と苦笑いした。可愛い。
そんな恭くんは、わたしを抱きしめていた手を緩めると、今度は手をとった。
「逃げよう、瑞紀ちゃん」