なぜか推しが追ってくる。
「……で、すっかり楽しんじゃったけど本題だね」
結局わたしのリクエストに応えて3曲ほど楽しそうに歌ってくれた恭くんが、トンっと音をたててマイクを置いた。
わたしも恭くんの歌声に感動しすぎて忘れるところだった。
恭くんはさっき、カラオケに入った目的が歌うことではない……というようなことを言っていた。
「はい、これ」
恭くんから冊子のようなものを渡された。
「……え、これって」
「本当はレンタルスタジオとかあると良かったけど、この近くにはないし、そもそも予約しないと借りられないからね。二人だけだし、防音で個室のカラオケで代用させてもらおうかなって」
渡されたものは──つい先ほど見てきたあの舞台の台本だった。
書き込みの感じからして、恭くんが使っていた物だろう。
「お願いがあるんだ瑞紀ちゃん」
「お願い?」
「今から、最後のシーンのヒロイン役をやってくれないかな。台本見ながらで構わないから」
ドキリと心臓が跳ねた。
受け取った台本を持つ手が震える。
……恭くんは、わたしの心の中でも読めるのだろうか。
まさか、舞台に立つ恭くんたちを「羨ましい」と思ったことがバレているのか。