なぜか推しが追ってくる。
それかよ! と思われても仕方ない。
だけど距離は遠いし、タイミングよく紙吹雪は舞うしでよく見えなかったのだ。
「いやわかってるよ!? 役者である以上キスシーンなんていくらでもありますよ。だからこんなことでいちいち嫉妬してるのおかしいんだよね、知ってる。知ってるけど!」
慌てるわたしに、恭くんは「ふふふっ」と肩を揺らして笑う。
そしてその笑顔のまま言った。
「今回は実際にキスしてはないよ。したフリだけ」
「そ、そっかぁ……」
「安心した?」
「……しましたごめんなさい」
深々と頭を下げる。いや本当に、図々しい奴で申し訳ねえです。
だけどおかげさまでモヤつきは治まりました、はい。
──そういうわけで、わたしは台本の該当ページを開いてみた。
稽古を見学しに行ったときに読んだのは、中盤のヒロイン独白のシーン。
クライマックスのセリフ量はそこより少ないけれど、当然相手役と息を合わせることが重要になる。
「『……来てくれてありがとう。あのね、あなたにどうしても伝えたいことがあるの』」