なぜか推しが追ってくる。
「『……こんな私ごときが、あなたの隣にいたいって望んでもいいのかなぁ』」
ああ、すごいな。
演技をするのって、本当に楽しい。
終わりたくないよ。
「『当然だよ。きみがいない世界じゃ生きていけなくなった責任、取ってほしいぐらいだ』」
でも恭くんのこのセリフが、台本の最後のセリフ。
これにて本読みは終了。
……の、はずだった。
「『でも、“隣にいたい”だなんて、曖昧でぼんやりとした言葉だけじゃあ、僕はやっぱり満足できないんだ』」
なぜか、恭くんの演技は続いていた。
驚いて台本を凝視するけど、そんなセリフはない。
それでも、恭くんの声色や話す速さから、ヒーローを演じ続けていることは明白だった。
一人称も恭くんが普段使う「俺」ではなく、ヒーローの使う「僕」のまま。
「『思いが届いたってだけじゃ全然物足りない。もしかしたら僕は相当なわがままなのかもしれない』」
直感した。
演技は続行しているけれど、これは「ヒロインがヒーローに」ではなく、「天羽恭が武藤瑞紀に」向けている言葉なのだ。