なぜか推しが追ってくる。




何を、したいのだろう。

わたしは台本から目を上げて、恭くんの顔を見る。


と、恭くんは恭くんで、まっすぐわたしに視線を送っていた。

まるで、『次は瑞紀ちゃんのセリフだよ』と言っているかのよう。




「あ……あ、え……」




読むべき言葉なんてあるわけないのに、思わず台本のセリフを追ってしまう。

何回かそんな動きを繰り返した後。


わたしはゆっくり瞬きして、息を吸い込んだ。




「『……それなら、あなたの望みが何なのか、教えてくれる、かな?』」




手元の台本はしっかりと閉じていた。

台本を閉じると、途端に頭の中が真っ白になる。


だけど、これは台本にないセリフ。もともと真っ白なのだから、これ以上白くなりようがない。


ヒロインの、気弱で少し震え気味な話し方のまま。わたしは恭くんの真意を探るための言葉を投げかける。


すると恭くんは、少し口角を上げた。




「『僕はきみと、ちゃんと名前のある関係になりたいんだ』」


「『名前のある、関係?』」


「『そうしておかないと、またいつきみが僕の前からいなくなってしまうかわからないから。きみがいない世界じゃ生きていけなくなった僕にとって、その不安は死活問題だと思わない?』」





< 201 / 223 >

この作品をシェア

pagetop