なぜか推しが追ってくる。
何を、したいのだろう。
わたしは台本から目を上げて、恭くんの顔を見る。
と、恭くんは恭くんで、まっすぐわたしに視線を送っていた。
まるで、『次は瑞紀ちゃんのセリフだよ』と言っているかのよう。
「あ……あ、え……」
読むべき言葉なんてあるわけないのに、思わず台本のセリフを追ってしまう。
何回かそんな動きを繰り返した後。
わたしはゆっくり瞬きして、息を吸い込んだ。
「『……それなら、あなたの望みが何なのか、教えてくれる、かな?』」
手元の台本はしっかりと閉じていた。
台本を閉じると、途端に頭の中が真っ白になる。
だけど、これは台本にないセリフ。もともと真っ白なのだから、これ以上白くなりようがない。
ヒロインの、気弱で少し震え気味な話し方のまま。わたしは恭くんの真意を探るための言葉を投げかける。
すると恭くんは、少し口角を上げた。
「『僕はきみと、ちゃんと名前のある関係になりたいんだ』」
「『名前のある、関係?』」
「『そうしておかないと、またいつきみが僕の前からいなくなってしまうかわからないから。きみがいない世界じゃ生きていけなくなった僕にとって、その不安は死活問題だと思わない?』」