なぜか推しが追ってくる。
部長にお願いしたのは、簡単に言えばわたしのためだけの台本だった。
セリフを覚えられないなら、アドリブで乗り切ればいいじゃない……というもの。
設定、展開、照明、小道具などはきちんと用意されてはいるものの、はっきりとしたセリフは決められていない。だいたいこんな感じ……で進めていく。
だけどそんな内容のもの、他の部員が対応できるわけもない。
だから……
「出演者は、わたしと恭くんの二人だけで。部員じゃない恭くんを出演させるのは迷惑かもしれませんけど、できますか?」
「なるほど、なかなか無茶なこと言ってくれるな。……だがやろう。武藤が舞台に立つ姿は見たいからな!」
「俺も部長さんの書く話好きなので期待してますね」
恭くんは何だか上手いこと部長をおだててくれた。そしてそのおかげか、想定していたよりずっと早く台本は出来上がった。
そこからは、ただひたすらに練習を重ねる毎日。恭くんも忙しい合間を縫って付き合ってくれた。
やっぱりブランクは大きい。
役者を辞めてからはボイストレーニングなんてもちろんしてこなかったし、演技力も格段に落ちている。
それでも……すごく楽しかった。