なぜか推しが追ってくる。
当然ながら隣の恭くんはこの程度で緊張する様子など微塵もなく、ただわたしのことだけ心配してくれる。
「瑞紀ちゃん」
優しい声で名前を呼ばれ顔を上げると、両方の手のひらで頬をぐっと挟まれた。
「絶対大丈夫。練習のときみたいに、楽しむことだけ考えよう?」
「楽しめるかな……」
「俺、前に『演技をすることを楽しめない』……って言っちゃったことあったよね」
恭くんが言っているのは、演劇部の見学に来たときの話だろう。
楽しそうに演技をする部員たちを見て、どこか羨ましそうにそんなことを言っていた。
「でもね、この前の舞台はすごく楽しかった」
「え?」
「きっと、『絶対に瑞紀ちゃんを楽しませたい』って思いながら演じてたからだと思う」
「わたしを……」
「俺にそんな気持ちを思い出させてくれた瑞紀ちゃんなんだから大丈夫。絶対に楽しめる」
恭くんの力強い言葉に思わず笑みをこぼした。
彼の手をつかみ、わたしは「頑張る」と唇を結ぶ。
そんなときだった。
「あー! 瑞紀と天羽恭がイチャついてるっ!」
人懐っこくて明るい声が聞こえてきて振り返れば、冷やかしに来たらしい親友たちの姿。